これで3つめ『海獣の子供』についての記事。
今回は原作のセリフ(名言やキーワード)から、その世界観に触れていきたいと思います。
(話が繋がりやすいように、原作に出てきた順に記載していきます。)
※3、4巻あたりからネタバレに繋がる恐れがありますのでご注意ください。
※琉花の中学時代を”現在”としています。
海獣の子供 キーワード・名言集
第1巻より
現在
虫だって動物だって
光るものは見つけてほしいから光るんでしょ。
海
琉花と人魂を見た後、人塊の到来がなぜ分かったのか尋ねた琉花への答えです。
琉花はこれを聞いて、
”わたしの見つけてほしいって気持ちも、海くんには見えちゃったのかもしれない”
そう感じるのでした。
鯨はもしかしたら、見た風景や感情をそのままの形で、
伝えあって共有しているのかもしれない。
琉花は・・・
思っている事の半分でも、伝えられたためしがあるかい?
ジム
鯨のソングを琉花に説明する際のジムのセリフ。
波打際はとても雄弁なんだ。
海の水を伝わってたくさんの情報が集まってきてる。
それが聞き分けられると、波打際にいれば大抵の事はわかってくる。
空
琉花との出会いのシーン、空のセリフ。
人魂が落ちて以来起こっている海の異変、聞いたことのないソング。
海の水を通して空は自分たちにも影響する普段とは違う何かを感じ取っているようでした。
違うよ・・
見にきたんた。
そうじゃなかったら食べにきた。
あのジンベエザメに群がってたのと同じだよ。
また新しく誰かが光になっちゃうんだ、それで・・
海
人魂が落ちた後、起こり続ける海の異変。
メガマウスが打ち上げられたこともそのうちのひとつ。
琉花のお父さんは
”巷じゃ大地震の前触れとかって気味悪がってたよ。”と言う。
これに対して、それを否定する海の言葉です。
深海から来た珍しい希少種たちは、空を見に、または食べに来ている、と、海は空のことを心配しています。
光を見に集まるのは魚だけじゃないよ。
いろんな生き物やもう死んだモノたちも・・・
さっき海にたくさん来てた。
ここにもいるよ。
海
海にも陸にも、 幽霊はどこにでもいる。
打ち上げられたメガマウスを見にいろんなモノが見に来ていて、それが琉花に興味を持ってついてきた、と言う海。
目には見えないけれど、琉花もその気配を感じる、というシーンでした。
・・見るって事は信号を受け取ってるってことだから。
例えばリモコンでテレビの操作をするのも信号だからね。
見た事でこっちのチャンネルが変わることもあるかもしれない。
今までと違うものが見えたり、感じ方が変わったり・・
ジム
”何か特別なものを見たら、それで自分の何かが変わっちゃたりしますか?”
という琉花の問いに対して。
海と空と出会いの後から起こっている不思議な出来事と、琉花の中の変化。
そんな琉花の心境が伺えるシーンでした。
第2巻より
現在
空や海のまわりにはよく生き物が集まってくるんだ。
彼らが小さい頃からね。
インドネシアにいた時には”イッカク”を目撃した。
彼らのまわりではそこにいるハズのない生物が発見される・・
生命が多様性によって維持されるものならば・・
そして様々な環境に適応していくことで多様性がうまれるなら、生命は進化のある段階で、『好奇心』を必要として獲得したのかもしれない。
ジム
ジムは海と空にひきつけられ興味をもった生物が、自らの”好奇心”に身を任せ命のリスクも顧みず、二人の元にやってくる、と言っています。
台風は確かに大きな被害をもたらすけど、それだけじゃないんだから。
例えば川底の石についた汚れを台風の大雨が流してくれる。
魚たちの卵はきれいな石にしか産みつけられないから、台風のない年は卵も減ってしまうのよ。
(中略)
台風だって地球の生きるシステムの一部なんだから。
単なるトラブルメーカーなんてないと思うの。
いろいろな一面を見なきゃ。
水族館従業員
琉花が台風を理由に、空の捜索に出る事を父親から禁止された際、
”台風なんてなくなればいいのに”という琉花に対してのセリフ。
部活でも、父親からもトラブルメーカーとして扱われる琉花。
中学生の琉花に対して、こういう真摯な態度をしてくれる大人って貴重で必要とされる存在ですよね。
ちなみに個人的に、この理科の授業のようなセリフの内容、よく調べられているし、”トラブルメーカー”に対しての処理もとてもうまいな、と感じました。
台風は”精霊の船”なんだ。なんでも運ぶ風の船。
記憶や時間や・・精霊も幽霊も。
台風の日は海で産まれた大勢の幽霊たちと、嵐の中ですれ違う。
海
台風の日に、行方不明になっていた空が戻ってくることを感じた海。
海と空と、同じ場所で生まれた台風は二人の兄弟とも言っています。
また、この台風で運ばれてきた記憶により、琉花は自分の使命に気づかされます。
海はあなたたちの考えのおよばない別世界だよ。
情報もいろいろな形で伝わってくる。
空
どうやって小笠原まで行って海底から隕石を探し出したのか。
アングラードとの会話での空のセリフ。
人間なんて無知だ、と天才海洋学者のアングラードを諭すかのような雰囲気で語っていました。
体のずっとずっと奥のほうに渦巻きがある。
台風が消える前に、僕に産みつけた台風の赤ン坊・・・
どんどん・・・大きくなっている。
海
台風が去った後、海は声が出せなくなります。
台風をきっかけに海の体に変化が起こり始めたのでした。
だって言葉にならない事は”ない”ことになっちゃうでしょ?
(中略)
ジムに鯨の話聞いたときすごいって思った。
思ってることがそのまま伝えられるって。
海くんと空くんて・・
そんな感じなんじゃないの?
琉花
空がアングラードの元へ行ってしまい、声が出なくなってしまった海。
海を助けるためにも、空を連れ戻しに行く提案をする時の琉花のセリフです。
この後、海が琉花の耳元に手を当て、海の気持ちが伝わる、という展開になります。
普段から自分の気持ちをうまく伝えられない琉花。
この作品のひとつのテーマである、”言葉にならないモノ”に対するひとつの伏線のように感じられるシーンです。
口のきけない海くんの『コトバ』を聞こうと、耳や目や心を澄ませていると、自分がちょっとだけズレていつもとは違う世界にいるみたいな気持ちになった。
琉花
人間にも元々は言葉以上に伝えあえるような感覚を持っていたのかもしれない・・
いつの間にか失ってしまった感覚。
そんな風に感じさせる琉花の思いです。
顕微鏡ができる前・・
人間にとっての世界はもっと大雑把なものだった。
望遠鏡ができる前、世界はもっと小さかった。
今、見えているものが・・
世界のすべてとは限らないだろう?
ジム
空がアングラードの元へ行ってしまい、空に残された時間がないと感じるジム。
空の体の検査では異常はなかった、と主張する琉花の父親に対してのセリフ。
あいつははじめて海が加えた『新しい要素』なんだ。
そしたら・・・
動き出した。
空
海と空はジムといながらも、自分たちの状況を自分たちなりに理解し、生き延びる方法、海の幽霊や光る命が消えてしまう謎・・・など真理を探しています。
長らく変化がなかった二人の状況に変化をもたらしたのが、琉花。
”あいつ”、”新しい要素”とは琉花のことです。
この世界に在るもののうち、僕ら人間に見えているものなんてほんの僅かしかないんだ。
宇宙を観察する技術が進んでわかったのは、どんな方法でも観測できない”暗黒物質”があるという事。
(中略)
宇宙の総質量の90%以上は正体不明の暗黒物質が占めている事になる。
僕たちは何も見てないのと同じだ。
この世界は見えないもので満たされていて、宇宙は僕たちに見えているよりずっとずっと広いんだよ。
アングラード
この作品中でもかなりのインパクトを持った衝撃的なセリフです。
空の体には変化が起こっているのに、人間が行う検査では何も異常がない。
人間の非力さ、無知さを感じさせるセリフです。
僕は宇宙は人間に似ていると思う。
人間の中には、たくさんの記憶の小さな断片がバラバラに漂っていて・・・
何かのキッカケで、いくつかの記憶が結びつく・・・
そのちょっと大きくなった記憶に、更にいろいろな記憶が吸い寄せられて、結びついて大きくなっていく・・・
それが”考える”とか”思う”という事でしょう?
それはまるで・・・
空
それはまるで星の誕生、銀河の誕生する姿とそっくり、とアングラードが続けます。
第3巻より
現在
私の中の隕石が・・・
どこかのだれかと会話してる・・・
わたし・・
行かないといけない。
琉花
隕石を琉花に託した後、空の体は光り、魚たちに食べられてしまう。それを目の当たりにした琉花はショックから不安定な精神状態となる。
アングラードにこのセリフを伝え、海と共に出港する。
ジムにとっては空が一番大切で、空は海の事が一番。
だから彼らはいつもすれ違ってるという話なんだけど・・・
そして海は・・
たぶん・・・誰でもいいんだな。
アングラード
この作品の人物の関係性がよく分かるセリフです。
深海の全く太陽光の届かない世界での、300℃の熱水と地中から湧き出す猛毒の硫化水素やメタンを栄養源とする生態系。
この生物群は硫化水素の化学反応エネルギーで成長するバクテリアと共生し、彼らのつくる有機物を吸収して生きている。
それは太陽による光合成に100%依存している僕たちとは全く異なる生態系だ。
そしてそれはこの星で最初に生まれた生体系に似ていると考えられてる。
太陽を利用できるようになる前に生まれた、地球だけの子供たちだ。
その生態系の起点となるバクテリアが海の体内にいたなんて・・
とってもスリリングだろ。
そうか、化学合成バクテリアが棲んでる場所が他にもあった。
鯨だ。
鯨はその油を獲るために乱獲されるほど油脂の多い動物だ。
その鯨が死んで巨体が海底に沈みゆっくりと分解・腐敗が進む。
その過程で生まれる大量のメタンや油脂分が海水中の硫酸イオンと反応して硫化水素ができる。
だから鯨遺骸の周辺には熱水噴出口と同じような生態系ができるんだ。
化学合成バクテリアのすまう、真っ白いエビや貝たち・・・
大昔の人はね・・・
蜃気楼は蛤の吐き出す夢だと考えていたそうだ。
もしかしたら僕らのすむこの世界は、深海を埋めつくす無数の貝が吐き出す夢なのかもしれない・・・
アングラード
略せずには書けませんでした・・・タイピング練習になりましたw
何やら難しいこと言ってる感じですが、まあ地上の生態系にはない特別なバクテリアが海の体にいたってことですね。
これはジムが空に内緒で行った、海の体の研究から得たもの。(ジムたちの研究チームはこのバクテリアの存在を見逃してしまい、ごみ箱から拾った資料をもとにアングラードにより発見されたもの)
そしてその特殊なバクテリアがいる生態系と似たものが鯨の死骸の付近にも表れる。
そんなお話です。
空や海は・・
彼らは本当はどこから来たのか。
彼らは何者なのか。そして・・
これから彼らはどこへ行くのか・・・
そして僕たちも。
アングラード
ゴーギャンの代表作を思わせるセリフですね。
海底に横たわる巨大な鯨の死体や、
2億年の旅の末に海底が地球に飲み込まれていく海溝や、
そんな深い遠い場所からあの子たちは来たんだ。
だって・・
あの子たちの瞳はいつでも
ここじゃないずっと遠い場所に繋がっている。
琉花
自らの使命を感じアングラードと海と共に沖に出た琉花。
アングラードのバクテリアの話を聞いて、琉花は海と空が壮大な存在であることを感じました。
10年前
私の目に映ったあの子たちだがね、
巨大な渦の中心だ、多くのものを巻き込んで成長する。
それは人間だけでない。
成長した姿は見えない。
ふたりのうちどちらが本当の中心なのか、それともふたりともなのかそれはわからない。
デデ
デデが海と空の印象を語るシーン。
それはまるで台風のような大きな渦・・・台風のあの日から、海の中に現れた渦を現しているかのようなセリフです。
鯨の脳皮質は人間よりはるかに大きく発達している。
体の機能は使われるから発達するんだから・・・
きっと鯨は考えているんだろうと思う。
(中略)
鯨の考えてることが分かれば、きっとすごいことになるよ。
アングラード(子供時代)
アングラードはこの頃は子供。まだジムを慕い、研修の補助をしている頃。
デデからジムに対しての質問、”昔会った海の子供の正体は何と考える?という問いに、””鯨のような特殊な存在”と答えるジム。
”なぜ鯨が特別か?”
デデに尋ねられた際のアングラードの答えです。
その直後デデから、それは人間中心の考え方だ、と批判されます。
今わたしたちのまわりにある全ての存在は、世界が生まれたときからきっかり同じだけの時間を経てここにある。みんな対等だと思うけどね。
自分だけが頂上にいると思うのはマチガイだ。
わたしたちはまだ何も知っちゃいない。世界の何も見つけてない。
あまりに未知の事が多すぎて、全体像もその意味も、知るには至らない。
(中略)
覚えとくんだね少年。
君が学んでいる方法論ではイルカが海面高くジャンプする事すら説明つかないんだよ。
人間の知の限界は数学的に証明されてるんだろ?
あの子たちだけ見てもだめだ。全体を見なくては。
さしあたって海を。海の役割を・・・
この海の中に潜って人が実際に見た事があるのは、海全体の何%になるのか。
平均3千メートルに達する、深い水の世界。
海中のほとんどの場所は、人が未だ触れた事のない未知の世界。
デデ
デデはとても広い視野で世界を捉えていて、博学にして世界に対して謙虚な姿勢で接していることが伺えます。(人に対してはちょっと圧が強めですが・・・)
そのハングリー精神をもって、一人で大海原を航海し研究を続けロマンを追い求めているのです。
またこの考えは子供のアングラードに、ジムの研究とは違う視点を与えるきっかけになっていると思われます。
幽霊にもいろいろある。
『死者』の幽霊
『物』の幽霊と・・
『事』の幽霊・・
わたしたちの言った事した事は、風が水に皺を刻むようにこの世界に痕跡を残す。それは形を変えながら拡がっていく。
鯨のうたの一節に形を変え・・・素粒子の振動の内に受け継がれる。
世界のどこかに永久に記憶された、私たちのした”事”
その痕跡を・・・『幽霊』と呼ぶ事もある。
ふとした瞬間にわたしたちは出会うのだ。
過去や未来の”誰か”の記憶に・・・
デデ
私たちの全ての行いは何かに影響を与えている。また、何かの影響を常に受けている、とも言える。目には見えないこの存在をデデは”事の幽霊”と言っています。
こんなこと言われたら・・悪いことできません・・・!!
現在
記憶は伝わって伝わって
わたしに届いて、わたしの気持ちものせて。
また伝わっていく・・・
この水は、どれだけの記憶を蓄えているんだろう。
琉花
水の記憶を頼りに、たくさんの魚たちと”受精”の場所まで泳ぐ、琉花の心のセリフ。
その水に溶けた記憶のおかげで迷うことは一切ありません。
これはあの歌だ!
何かの誕生を歓ぶ歌だ。
鯨たちがうたっている・・・
隕石も一緒にうたっている・・
琉花
水の記憶を頼りにたどり着いた場所で、クジラのソングを聞く琉花。
ソングの意味を知るシーンです。
自分の中の隕石もソングに反応している事にも気づきます。
もし・・セイレーンが『海の子供』だったとしたら?
セイレーンはなんのために、人を海中にひき込むのか・・
(中略)
そもそも彼らははじめから、僕らを利用してるんだ・・・
アングラード
この”彼ら”は海と空のことです。
ここから本編ではアングラードと海と空の出会いに遡ります。
8年前
君は?どこから来たのかなぁ・・
ジムは空にかまってばっかり。
ジムにはわからないのか?
(中略)
君の中に何があるか見せてくれよ。海。
(中略)
わかったよ。
僕らは宇宙の内臓なんだね。
アングラード
アングラードは幼い海の笑顔からしたたかさを見抜きます。また、”別のプログラムが彼らには隠されてる。”とも言っています。
ジムを慕っていた頃のアングラードとは違い、ジムの補助としてではなく自分なりの視点から研究を進めていることがわかります。
そしてこのセリフ。
幼い海を連れ出し、海にきたアングラード。
海には空よりも深い謎がある事にアングラードは感づいていました。
海に正体を尋ねたところ、アングラードは巨大化した海に丸飲みにされます。
そしてアングラードは大きな人体の、母体の子宮辺りに自分がいることに気づきます。
その後、波打ち際で倒れていたところを発見されたアングラード。
この体験でアングラードは、”僕らは宇宙の内臓だ”と気づきます。
またこのシーンで、海と空は違った存在であることが分かります。
デデの言う”本当の中心”は海だったのでしょう。
加奈子が幼い頃
これは人じゃない、世界地図だよ。
昔の人は世界がこんな姿をしていると考えたのさ。
大海女
古い木箱のふたに書いてあった、女の人。
大海女が幼い加奈子に教えたセリフです。
この後の創世神話の話につながります。
現在
亜大陸の創世神話にこんな話がある。
まず原初の水があった。それが胎児を孕み、原人となる。
『原人』は千頭、千眼、千足を有している。
世界は彼に満たされており、我々の知る世界は彼の四分の一にすぎず、四分の三は不可知の世界である。
彼の思考より月が生まれ、眼より太陽が生まれた。
口から火、息から風が生まれ、臍より空が生まれ頭は天界となり、両足は他界、耳が方位となった。
別の神話では、宇宙ははじめ水で満たされ、真水の神と塩水の神が交わり神々が生まれた。
後に起こった神々の戦争で敗れた女神の死体が2つに切り裂かれ、半身は天に、半身は地となった。
女神の唾から雷が生まれ、両眼から2つの大河が流れ出した。
ジム
ジムはいくつかの創世神話を出し、世界を生み出す『元』として、海と空が候補の一つとしてあげられている、と言います。
読み手にも、”おそらくそれは海のことなんじゃないか・・・”と予感させる流れですね。
第4巻より
現在
海は”彼岸”なんだよ。
そして、女の体は彼岸と繋がっている。
あんたは知っているはずだ。
女の体は彼岸からこっち岸へ生命をひっぱりだす通路なんだから。
本当は海の事は女が専門家なのさ。
デデ
行方がわからなくなった琉花を捜しに、デデと加奈子が海に出たときのセリフです。
冒頭に出てくる〝海と空をつなぐ道〟はこの通路と同じ意味でしょう。
その人(生まれてからの全ての記憶がある人)が『ジャイアントケルプの森』の水槽の前にいたときに、ちょうど魚が消えるところを見たの。
(中略)
実はいろいろ聞いてまわったらあの光を見たほとんどの人が、以前見た事があるって感じてるの。
それで魚の光を見たときにその人が言ったのが・・・
水族館従業員
次のセリフに続きます。
(光る魚を指さし)あのさかな!
消えちゃった・・・
お母さん!あそこをくぐったんだよ。
くるしかったよ。
それまではせまいところにいたの。
(中略)
ぐるぐるまわらないととおれないの。
そしたら、おかあさんにあえたんだよ。
胎内記憶のある子供
世界中で起こっている、魚が光って消える現象。
水族館で”胎内記憶”があるという子供に集まってもらい話を聞くスタッフ。
記事になっていた、『すべての記憶を持つ人』と胎内記憶がある子供は同じことを言っています。
この魚の光は、産まれる時にくぐった光と一緒なのでした。
似ている事には意味がある・・
(中略)
うず巻銀河は台風と似てるけど・・・
クモヒトデのほうが似てるかも。
イシサンゴの一種はまさしく脳そのもの。
海の生物には内臓そっくりなものも多いからそれを集めて組み立てれば・・・
『人間』ができるかも!
(中略)
生物はみんな、水素や酵素、炭素、窒素なんかからできている。
(中略)
宇宙が誕生して星が生まれ成長し死んでいく
その過程で作られた物質からこの世のすべてのものができている。
たったひとつのものの部分にすぎないのかもしれないな、太陽も海も人間も・・・
僕たちは『内臓』
”海のある星”は原人の子宮・・・か。
宇宙に行ってみればきっと、海に似てると思うよ。
こうして宇宙を見ていると・・海の中にいる時と同じ気持ちになる。
アングラード
この4巻のアングラードの盛大な”ひとりごと(通信?)
この世のすべてのものは一つであり、人間もその一部でしかない。
海は生命誕生の場所であり、それは宇宙と似ている。
この壮大なお話、是非美大出身の五十嵐大介さんの絵と共に、アングラード先生から教えてもらってください。
本来なら夏に豊かな北の海でたらふく食べて、冬には南の海で子育てをするんだから。
命湧く北の海より魅力的な何があるのか・・・
あんたの娘もそれにひき寄せられてるんだろう。
デデ
ソングによって集まったザトウクジラは本来その時期いるはずのない海域で見つかる。
琉花の捜索中のできごと。デデの加奈子へのセリフです。
波打ち際は生と死を分かつ際だ。
死者と生者が入れ代わる境界なんだ。
(中略)
海に棲むものにとっての死は、君たちにとっての生。
君たちにとっての死は、海に棲むものにとっての生。
空に似た影
ザトウクジラに飲まれた後、琉花に話しかけてくる影のセリフです。
海と空にとってはどちらでしょうか?
”ここをずっと歩いていけばわかるよ”影は言います。
そして誕生祭が始まるのです。
6年前の南極
もしそのナンキョクオキアミが絶滅したらどうなるか。
(中略)
このちっぽけな生物は、この星にとって人間なんかよりずっと重要な存在なんだ。
世界の主役は人間じゃない。・・・そうだろ?
アングラード
話は6年前に遡ります。
南極での空の生体実験の際のアングラードのセリフ。幼い空に向けてのセリフです。
地球上で最も繁殖に成功したナンキョクオキアミ。この生物は様々な海洋生物のエサとなって生態系を支えています。さらにナンキョクオキアミがエサを食べ糞をすることで大気中の二酸化炭素が海底に沈められ、地上の大気バランスは保たれているのです。
地球全体の生態系、気候まで変えてしまう重要種、ナンキョクオキアミ。
やはりここでもアングラードは人間の存在の小ささを語っています。
あなたはこのうたを知っている。
むかしこのうたを聞いた人間が自分たちの言葉に置きかえた・・・
星の
星々の
海は産み親
人は乳房
天は遊び場
形をかえたから力を失ったけど、これは特別なうた。
幼い空
鯨のソングが星のうただと、空がアングラードに伝えるシーンです。
ジムには彼のやり方でそれだけで対処してもらわなくちゃ。
その方法でどんな結果が導かれるか知りたいんだ。
(中略)
ジムは俺に死を与えた。
彼が与えたものだから、彼に取り除いてもらわなければ。
幼い空
ジムは基本的には海を実験台にはしない。(勝手に調べて空の反感をかったことはある)まあジムは2人の違いなどは気にしていないのだと思いますが・・・
空は自ら”自分の体を調べてほしい”とジムに持ちかけるシーンが以前ありました。
それは、海を守るため、危険な生体系の実験は自らが引き受けるためでした。さらに自分たちを、自分たちとは全く違った視点から研究をさせることで新たな気づきを得るためジムを利用しているのです。
また、ジムが若い頃、鯨を捕らえた島で出会った、死なせてしまった鯨の王の幽霊・・”彼”は空だった??
そんなこともこのセリフから想像できます。
そこら中あちこちに潜んでいるうたを、鯨が傍受して形を与える。
それを海がマネする。
そうやってあのうたがいつか世界を満たす・・・
あなたはすでに知っている。
海の体に飲み込まれて。
海の体を通して。
今度はそれを自分の体で確認したいだけでしょう?アングラードは。
幼い空
アングラードに対してのセリフ。
アングラードの目的まで見抜いている、姿は幼いのに全てを理解している空。とても異様な存在感を放っています。
ジムは死が嫌いだから。いつも海や俺の死を追い払おうとしている。
どうして?形が変わるだけなのに。
生まれる
食べる
食べられる。
体の一部になる。
土になったり、森になったり。
変わりながらぐるぐるまわる流れの中の一瞬にすぎないのに。
(中略)
人間だけが『死』までの区切られた時空に閉じ込められている。
(中略)
言ったろ?あのときあなたに興味を持ったって。
だから銛を受け取った。
幼い空
ジムに対してのセリフ。『死』などない、形が変わるだけ大きな流れのひとつだ、と言う幼い空。
ここで空は”彼”であったことが確信へ変わります。
海中でヤツを見たとき、原初の海から生まれた女神を思い浮かべた。
『ビーナスの誕生』だ。
たぶん・・リハーサル?
それとも・・
第二次性徴・・かな?
アングラード
南極での実験の際、腹部に女体のような模様をもつザトウクジラが現れます。
アングラードはその鯨を上記のように表現しています。
そして”今・・この海で起きている事はなんだと思う?”と言うジムの問いに答えています。
これは生命誕生に向けてのリハーサルかもしれない、アングラードはそう解釈しています。
あの巨人が示しているのは”世界の姿”だ。
世界が人体だとするなら僕らはその中身・・・
山や海や生命はきっと内臓や血液なんだろう。
それは地球を一つの機構として捉える考えと同じものだ。
はるか昔の人間はだれに教えられるでもなく、感覚的、経験的にその事を知っていた。
ねえ、ジム
僕とあなたの違いがわかる?
”言語”なんだ。
僕はごらんの通りおしゃべりだけど、言葉のない世界を持っている。
世界を受け止める事、認識することを、言語に困らずにしているんだ。
あのころと同じように・・・
(中略)
きっと昔は人類も同じだったはずだよ。
鯨たち・・・
海の生物たちと同じ・・
その時の我々も・・
海そのものであり宇宙そのものだった・・
かつて人間も・・気高いケダモノであったのだ。
同じ、”言葉”でも”詩の言葉”は音楽に近い。
僕はね、音楽や詩はこの宇宙のいたるところに満ちているものだと思う。
そしてきっと。
生命も同じところから来た・・・
アングラード
ジムへのセリフです。人間がいつの間にか失ってしまった感覚があること。
これは2巻の琉花の
”言葉にしなかったことはなかったことになってしまう”
この言葉を更に深めた内容になっています。
第5巻より
現在
隕石はずっと眠っていた。
それをあのうたが揺り起こしたんだ。
君の体の細胞はあの鯨のうたを増幅して、直に隕石に伝えた。
隕石は目覚めた・・・
水に蓄積された記憶。
君の体の組織がはるかに受け継いできた記憶。
隕石はあらゆる記憶を引き出して、混ぜ合わせる。
海水に溶け込んだ膨大な記憶に導かれて君はここに来た。
その記憶を君にわかるように翻訳していたのは隕石なのさ。
君の中にある隕石を通して君は水の記憶に触れ会話してきた。
空に似た影
琉花により運ばれた隕石から水が湧き出てくるシーン。
謎の影がまた現れ、琉花に伝えたセリフです。
その影は”僕は君の知っている誰かの記憶であり、隕石であり、君の一部でもある。”
自らの存在をこう述べています。
琉花はこの誕生祭に関して、特別な存在だったことも想像できます。
あらゆる伝承が繰り返し語ってきたこと。
宇宙をひとつの生命に例えるなら、海の有る星は宇宙の子宮であるという事。
”本番”が始まる。
デデ
誕生祭直前のセリフです。
”僕のかわりに彼らが見たのは
海の中の世界ではなく
あの世の光景だったのかもしれない
地獄とか天国とか
それとも
これから生まれてくるものたちの世界
幽霊は死んでしまったものたちではなく
生まれる前のものたち”
お互い、特等席には着けなさそうだ。
あなたは選ばれなかった。僕も・・ね。
今回は、あの子が選ばれたんだ。
アングラード
これも誕生祭直前のセリフ。ジムに対しての言葉です。
誕生祭に呼ばれたのは”あの子”は琉花のことですね。
誕生祭以降
”あれ”が何に似てるって言われて・・・真っ先に思い出すのがこの光景だね。
デデ
満月の夜、海に潜って珊瑚の産卵を見た後のデデのセリフ。ジムと研究をしていたジャンルイとの会話です。前後の会話から”あれ”とは誕生祭を指していて、誕生祭は珊瑚の産卵の光景に似ている、とデデは言っています。
皆がいろんな根拠を元にいろんな意味をつけたがる。でもその中に
「正解」なんてあるのかねぇ・・・
波や風の語るコトバはシンプルなのに、皆考えすぎてんのさ。
デデ
長々と考察記事を書いている私をあざ笑うかのようなデデのセリフですw
(実際は誕生祭についてのデデの考えで、そんな意図のセリフではありませんw)
案外・・・
わたしたちが思ってるよりしょっちゅう起きてる現象なのかもしれないよ。
海は広いって事さ。
海で起きるほとんどの事は誰にも気づかれない。
アンタやわたしの耳に届く事なんて砂浜の砂一粒より少ない。
デデ
誕生祭に関してのデデの考えです。デデは繰り返し、世界の壮大さと人間の小ささを話しています。
命を断つ感触がした。
琉花
なにしろお腹の中では羊水の中で息をしていて、
出てきたとたん肺呼吸になるんだから・・・
海の生物が陸の生物に生まれ変わるみたいなものよ。
加奈子
死ぬことは・・・別の世界で生まれる事?
同じものの・・表と裏みたいなもの?
琉花
母・加奈子の出産に立ち会った琉花はへその緒を切る体験をします。
それは”命を断つ感触”でした。海から陸の生物へ。
”生まれることは死ぬこと”
”死ぬことは生まれること”
変化の時を迎え、別のものに生まれ変わる。
それは全体から見たら小さいけれど、大切なひとつのできごとなのです。
未来
世界の秘密はそのヒントを、あるいはそれそのものを様々な形で現わしている。
鯨が抱く女神や、島の時をすり抜ける少年の姿を借りて。
ウミガメの瞳の色や、海岸の木の葉の形、風の肌触りを通して、わたしたちに語りかけている。
お前の小さなてのひらの中にある物語にも、世界は姿を借りて潜んでいる。
これはそんなお話だ。
琉花おばあちゃん
琉花が孫に話した体験談を締めくくる前のセリフです。
”るか”は約束をずっと守るって決めた。
”るか”にとってあの夏は『約束』だったの。
確かに約束した。
”彼ら”と。
あの海と。
全ての時間と交わした。
一番大切な約束は、言葉では交わさない。
だから誰かに説明することも出来ないし、時に曖昧にしてしまいそうになる。
でもいつでも体の一番奥で、ちゃんとつながっている。
私はそれを見続ける。
その声を聞き続けるのよ。
”人は乳房”か・・・
あの夏は、あの時期は、
少しは彼らの栄養になったのかなぁ・・・
琉花おばあちゃん
原作での琉花の最後のセリフです。琉花があの夏の体験をずっと大切にしてきたことが分かるセリフです。
まとめ
さて、海獣の子供のセリフを順に追ってきましたが、この話の世界観をつかむヒントになったでしょうか。
終盤の”生誕祭”は映画でもものすごいことになってましたが、原作の漫画の方も相当すごいんです!(私の文章力では書ききれません・・・)
迫力の見開きが次々と!画面から押し寄せてきます。とてもおススメの作品です。
それではまた。

