久々に洋画を映画館で観ました~
何と言うか、とても映画らしい映画!大満足でした!

レディ・マエストロ
『The Conductor』
2018/オランダ 139分
監督:マリア・ペーテルス
キャスト:
クリスタン・デ・ブラーン
ベンジャミン・ウェイライト
スコット・ターナー・スコフィールド
解説
女性指揮者のパイオニア、アントニア・ブリコの半生を描く伝記ドラマ。
女性が指揮者になるという夢を見ることさえ許されなかった時代に、自らの手でその夢を掴んだ彼女の波乱万丈な道のりを、マーラー「交響曲第4番」、ストラビンスキー「火の鳥」など数々の名曲とともに描き出す。
1926年、ニューヨーク。オランダからの移民アントニアは、「女性は指揮者になれない」と言われながらも、指揮者になるためならどんな困難にも挑むと決めていた。
音楽への情熱だけは誰にも負けない彼女は、ナイトクラブでピアノを弾いて稼いだ学費で音楽学校へ通い始めるが、ある事件によって退学を余儀なくされる。引き止める恋人を置いてベルリンへ向かった彼女は、遂に女性に指揮を教えてくれる師と巡り合い、まるで何かに取り憑かれたかのようにレッスンに没頭するが……。
予告
『レディ・マエストロ』予告編
登場する主な楽曲
ガーシュウィン ”ラプソディ・イン・ブルー”
ドビュッシー ”夢”
ベートーヴェン ”ピアノ・ソナタ第32番”
ドヴォルザーク ”ロマンス”
バッハ ”オルガン・コラール”
マーラー ”交響曲第4番”
エルガー ”愛の挨拶”
ビゼー ”オペラ《カルメン》~ハバネラ”
ストラヴィンスキー ”火の鳥”
感想
想像していたような音楽映画ではなかった・・
フライヤーに
”『交響曲第4番』『ラプソディ・イン・ブルー』ほか名曲と共に奏でる感動の実話”
とありました。
上の項目でも書いたように、数々の楽曲が登場するよ!と紹介されていたことから、たくさんの音楽が演奏されるのかと思っていたのですが・・
ちょっと私の想像と違っていました。
音楽映画という面よりも、女性が指揮者になれるわけないと嘲笑されてもなお、自分の道を切り拓いていくひとりの女性の奮闘記、というイメージが強かったです。
1929年。女性の社会進出などまだまだ先の話であった、もう100年近くも昔のお話ですからね。世間の風当たりは相当きつかったようです。
また、彼女の出生秘話や恋愛など、ドラマ的な要素にも力を入れている感じ。
もちろん演奏もされるけど、流れる時間も短いしいいところでブツっと切れたり・・
名曲はおまけって感じでした。
なので音楽好きさんが演奏を求めて鑑賞するとちょっと物足りないものはあるかもしれません。
心動かされる主人公ブリコの奮闘ぶり&サポートする人々
ここからネタバレあります。
音楽を期待して観るとちょっとチガウ?なんですが、でも映画としてはとてもいい映画でした。
ひたむきに突き進む主人公が魅力的で心動かされました。
破天荒ぶりがいいですね。そのくらいじゃないとパイオニアにはなれませんよね。
(と言っても、ストイックとか根性ものという描き方ではなく、コミカルさもあって気軽に見やすい作風です。『ブラックスワン』みたいなのとはちょっと違います)
ブリコをあざ笑う人が大多数いる中で、彼女の才能と情熱を知ってサポートしてくれる人々もあらわれ、その人たちとの繋がり方が感動的でした。
『指揮は専制君主・民主主義じゃない』とブリコに教える指揮者カール・マック。
最初は子汚い偏屈なじいさん(失礼)だと思ったけど・・
ふさぎ込むブリコの背中を押す姿が印象的でした。なんだ、すごく熱心で優しいんじゃん!
一時恋愛関係になった富豪の息子フランクも良かったですね~!
大統領夫人とコンタクトを取ってブリコの楽団を応援するんです、匿名でさりげなく。
(ここポイント)
しかもそれが”大したことではない”、と。
”才能をつぶすようなことをしたことへの謝罪の気持ちからきている”、と。
できた人だ・・
最後の椅子の伏線とか、感動的なのになんかかわいいし。魅力的なヒーローでした。
まあふたりは結ばれることはないんですけどね・・
そしてそしてロビンですよ!
みんなジーンとしたよね、ロビン・・
ロビンにやられた~(いい意味で)
ナイトクラブを経営するロビン。
たまたま知り合ったブリコをピアニストとして雇ったり、部屋を貸してあげたり、いろいろ親切にしてくれるんです。
ブリコを全面的に受入れサポートしてくれるロビンの友情にじーんときました。
たぶんロビンはブリコに対して憧れの気持ちが大きかったんでしょうね。
女性差別が当たり前の中、めげずに夢に向かって行動するブリコは同じ女性として眩しかったんでしょう。
ロビンを演じた・スコット・ターナー・スコフィールドはトランスジェンダー俳優
ん・・・??
同じ女性として??ロビンが女性?

ブリコが女性交響楽団を結成した・・・その中に女装したロビンがいた!?
これ笑うところだと思ったよね、みんな。でも実際はマジでした。
ロビンは生まれた時の性は女性で、現在の姿はどこから見ても男性。
性同一性障害だったわけです。
ロビンを演じているのはトランスジェンダーを公表している俳優さんでした。
だからあれだけ自然だったのね・・・
ぜんぜん気づかなかったよ。でも確かに言われみれば声はちょっと高めかも?
ベルリンにいるブリコあてに、アメリカのとある女性からの送金があった・・
この伏線もうまく回収されたな、と感心しました。
あとね、個人的にいいな、と思ったのは
最後のベルリンフィルの演奏で、『目を閉じていれば女性が指揮をしているとは分からない』的な、女性差別っぽいセリフがあったんですよ。
その時のロビンのちょっとあきれたような表情がよかったですね。
共感共感。
ちなみに・・
ロビンは結局、普段の男の格好が自分の姿だと気づき、女性だけの楽団で演奏することはありませんでした。
私の希望としては普段通りのロビンで女性楽団の一員になってほしかったなぁ・・と思いました。
まあなんかややこしくなるし、女性の社会進出すらない時代でそこまで性についての考えが進んでいるわけないのでしょうがないんですけれど・・
全体的にまとめ方がとても良い
お箸・椅子・玉ねぎ・謎の送金・大統領夫人へのコンタクト・・・
いろいろと伏線が散りばめられていました。
それぞれきちんと回収されていくので、すっきりしたり、感動したり、クスッとしたり・・
エンタメ性が高いまとまりのいい印象でした。
フランクとの恋愛もうまくまとめてくれましたよね。
あの最後の曲に”愛の挨拶”を持ってきたのは賛否あるようですが、私はとても良かったと思います。
そんな愛の形もあるんです。
エルガー/愛の挨拶 op.12
すっきり爽快なサクセスストーリー・・・・というわけでもない
映像は成功をおさめ終わる・・・
でも最後に表示されたクレジットはけっこうシビア。
現実に忠実ですね。
今現在も、昔ほどではないだろうけど、性別により評価されないこともあるんだな、と思わせる内容のクレジットでこの作品は幕を閉じます。
女性指揮者も公平に評価される日を願う、制作者の思いが込められている終わり方でした。
歴史に名を残すほど評価される女性指揮者は現れるのか・・
今後に注目&期待ですね!