
トゥレップ「海獣の子供」を探して
2019/日本 90分
監督:山岡信貴 制作:STUDIO4℃ 配給:BeyondC.
STDIO4℃初の実写作品・ドキュメントオデッセイ。
『海獣の子供』よりもはるかに少ない劇場数で密かに上映されているこの作品。
アニメーション制作会社によるドキュメント作品!?
いったいどんな内容でしょうか。
先日鑑賞してきましたのでこの記事ではその内容に触れていきたいと思います。
ネタバレにつながる内容を含んでいますのでご注意ください。
INTRODUCTION
本作は7本のビデオテープを残して行方不明になった男の行方を追うという物語とドキュメンタリーを交えたドキュメント・オデッセイ。
謎の疾走を遂げた男を演じるのは、映画「海獣の子供」でアングラード役を務める森崎ウィン。男が残したテープに、現実の科学者や専門家、のインタビューを組み合わせ、最新の知見に基づき、現実とイマジネーションの境界を超越した、これまでにないリアリティーを創り出す。
監督は「縄文にハマる人々」で縄文1万年の謎に望み、全国に衝撃を与えた山岡信貴。この映画においても五十嵐大介氏の漫画「海獣の子供」で希求された、生命の秘密や可能性、人類と海や宇宙とのつながり、文明の新たな未来像を明らかにしてゆき、「海獣の子供」との相乗効果で、より深く作品世界を楽しむことができる内容となっている。公式HPより
泳ぐ魚などの絵が何度か実写映像に映りこむ以外、全て実写の作品です。
森崎ウィンさんは疾走する男と、その双子の妹の二役を演じています。
あらすじ
一人の男が姿を消した。残されたのは6本のビデオテープ。
テープにはそれぞれにタイトルがつけられている。
「海獣」「海」「生命」「神話」「対話」「宇宙」。
収録されているのはそれぞれのタイトルに沿った専門家のインタビュー映像と、行方不明になった男のボイスメモ、そして21世紀の日本の街の風景。
そこヵら浮かび上がってくるのは人類が海中で生きる可能性。
映像の解析によって、男はミクロネシアに向かったことが分かり、男の妹は現地に向かう。
そこでタイトルのない7番目のテープが発見される。
そのテープの中には、男の最後の姿が映されていた。公式HPより
トゥレップの意味
ミクロネシアのマーシャル語で航海や目的のある旅の意味。
またアイヌ語では、アイヌの主食オオウバユリを指し、「神様の贈り物」として、大切にしてきた「命をつなぐもの」。

インタビュー部分
この作品のドキュメンタリー部分は、五十嵐大介さん(漫画家)中沢新一さん(人類学者)佐治晴夫さん(理論物理学者)二木あいさん(水中表現化)長沼毅さん(生物学者)名越康文さん(精神科医)田島木綿子さん(獣医学博士)、7名の各項目に関してのインタビュー映像からなり、原作で使われる言葉や表現もたくさん出てきます。
どの方の話もおもしく、興味深く聞くことができます。
(個人的には二木さんと佐治さんのお話が特におもしろかったです)
映画「海獣の子供」は映像が全身に降り注ぐ作品でしたが、こちらの作品では大量の言葉のシャワーが浴びられます。
情報量は膨大で一度では記憶できません。書籍にしてほしいですw
個人的に特に印象に残っている一部分だけを簡単に書きます。
ひとつめ。
二木さんの、”人間は水中に入ると体が水中モードに切り替わる”、といった内容の話。
二木さんはご自身で造られた肩書”水中表現者”として、世界中の海をフリーダイビングで潜り、自ら撮影をしたり、被写体になることで作品を作っている方です。
一息で地中の洞窟を90m泳いだ、というギネス記録ももっています。
とてもストイックな訓練を受けたりもする二木さんですが、この”体が水中モードに切り替わる”というものは訓練によるものではなく人間が本来持っている機能である、とおっしゃっていました。
やはり人間や生命は海から生まれてきたんだな、と考えさせられるものです。
ふたつめ。
中沢さんの”日本人は南の海から来た人種だ”といった内容のお話。
中沢さんによると、南の海にノスタルジーを感じる日本人はとても多いそう。
私自身、南の海が大好きで、どこか懐かしさを感じていたのですごく腑に落ちてすんなり入ってくる意見でした。
みっつめ。
五十嵐さん・佐治さんの渦巻きの話。
”海獣の子供”でも重要な意味をもっていた渦巻き。五十嵐さんがその昔に渦巻きを感じた話、生命力や宇宙のモチーフ、ゴッホの”星月夜”を例にあげていて興味深いものでした。

ストーリー部分
マーシャル諸島の桜

フィクションストーリー部分ででてくるマーシャル諸島。
ミクロネシアの島で、戦争時に日本が統治していた時代もあり日本語の単語が今も残っています。この作品ではマーシャル諸島の島民たちが、島の民間伝承を語るシーンがあります。
そのひとつに、”女性は会いたい人の元に飛んでいける”といったものがあり、
『島の女性が恋した日本人の男性の元へ鳥たちに付けてもらった羽を使い日本に会いに行くが、その男性はすでに他に恋人ができていて、帰ってきて咲いた花が桜と呼ばれるようになった、』
といった内容のものが語られていました。(ちょっとうろ覚えです・・)
この話自体はおそらくフィクションですが、マーシャル諸島にはフレームツリー(南洋桜)というものは実在しています。
上の写真のように日本の桜より赤みが強い花が咲きます。
これをもとに作れた半分本当、半分作り話だったと思われます。
ただその他にも語られていた、鯨より強いタコの話などは実際の神話として語り継がれているようです。
ラスト
フィクションストーリー部分の結末。疾走した男はどうなったのでしょうか。
男はストーリーが進むにつれて支離滅裂な発言をするようになり、行動もおかしくなっていきます。
”自分が光り始めている”。男は言います。
新たに見つかった7本目のビデオの最後に映るのは砂浜と男の姿。
カメラは男から手放され、砂の上に置かれます。
男はマーシャル島の海で、海と空のように光になったのでしょう。
双子の妹も・・・数年後にはもしかすると光りだすのかもしれませんね。
まとめ
豪華メンバーの専門家が集まり、貴重な意見ががたくさんつまったとても興味深いこちらの作品。
特に海獣の子供の原作の世界観に惹かれる方はもちろん、生命の誕生、海の生物や神話、民族伝承などに興味がある方はかなり楽しめる内容となっています。
繰り返しますがインタビュー内容はとても濃厚で書ききれませんので、是非映画館での鑑賞をおススメいたします。
また、フィクションストーリー部分の映像は、森崎ウィンさんが実際カメラで撮る街の風景やドアップの自撮り動画が多く映し出されています。・・・森崎さんファン必見です!!

海獣の子供の記事はこちら↓
それではまた!